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Vol.55 2013年7月18日(木)
 大鳥居に引っ越して4ヵ月弱が経ちます。大鳥居から京急蒲田駅乗り換えで品川駅に向かう際、特に乗り換えの時間があまりない状況において、私は羽田行きの列車(大鳥居に逆戻りする列車)に飛び乗ってしまうことが
未だに、あります。 私が京急蒲田駅で乗り換え時に間違ってしまう(大鳥居に逆もどりしてしまう)のは、私のそ
そっかしさが最大の要因ですが、京急蒲田駅が、以下のような構造等であることから、多少分かり難いことも起因
しています。

・ホームは上下の2層構造。
・羽田方面行き、川崎方面行き、品川方面行きと行き先が3つに分かれている。
・行き先別に乗り場(ホーム)が完全に分離されていない。

  あともう一つ、京急蒲田駅での乗り換えで私が間違ってしまう(大鳥居に逆もどりしてしまう)のは、私の知識が私のとっさの行動に影響しているからのようです。私は、『品川と羽田をひとつのまとまった知識』として記憶してい
る(大脳皮質に格納している)ようなのです。『品川=羽田』というスキーマが、私を乗り換え間違いさせる要因でもあるようなのです。

大脳皮質
大脳半球の表層を形成する灰白質。哺乳類で著しく発達しており、人では思考や言語など高次の機能を担う中枢が局在する。新皮質。
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

 認知心理学の分野では、ある領域に関して人が持っているひとまとまりの知識を「スキーマ」と呼んでいる。スキーマはたくさんの断片的な知識要素が因果関係(この知識がこちらの知識の原因になっている)・包含関係(これはこちらの一部である)・順序関係(この後でこれが起こる)などの関係で結びついたものである。一度このようなスキーマを人が構築すると、そのスキーマを適用することによって人は外界の情報を効率良く処理することが可能になる。
今井むつみ、野島久雄(2003)『人が学ぶということ』北樹出版 pp.103-104

 大鳥居に引っ越す前に住んでいた鷺沼(川崎市宮前区)から空港に向かうことが、また空港に向かう通過地点が品川であることが、この3月まで多々ありました。鷺沼から品川、羽田を望むと、少なくとも私の心理的なマッピ
ングでは、品川と羽田は同じ方面に位置しています。私は、いつの間にか、無意識に、『品川=羽田』というスキーマを作りあげたようなのです。
 私が京急蒲田駅での乗り継ぎを乗り間違わないようにするためには、乗り換えの都度、乗り換える京急蒲田駅
を中心に品川、羽田をマッピングした画像をイメージするなどして、品川と羽田についての位置に関する知識を再
構造化する(概念変
化させる)必要があります。

 知識の獲得には二つの形態がある。知識の豊富化と再構造化である。豊富化というのは、すでにある知識の構造はそのままで、知識に肉づけが行われることによって、知識をより豊富にまた洗練されたものにすることである。
再構造化というのは、今までの知識を説明していた原理を捨てて、別の原理を採用することである。つまり再構造化というのは自分が持っていた今までの知識を根幹から見直し、構造を作り替えることにあたる。この知識の再構
造化は概念変化とも言われる。
今井むつみ、野島久雄(2003)『人が学ぶということ』北樹出版 pp.104

  知識の豊富化が必要なのか、それとも知識の再構造化(概念変化)が必要なのか。能力開発においてどちらが
どの程度のウェイトで求められているのか。能力開発の重要なポイントです。知識の豊富化について「知識を根幹
から見直すなんぞはまだまだ早い。もっと精進せねばなぬ」とは思いつつも、昨今の自身の頭や固さ(固定概念
化)や融通の利かなさを実感することが多い私なんぞは、後者(知識の再構造化;概念変化)より意識してチャレン
ジする方が、中長期的に得られる果実は実り多いのではないかと思います。
 知識の豊富化は、小学校の頃の昆虫採集で標本が増えていくような楽しみを私に猛烈に感じさせ、時の経つの
も忘れ熱中させます。知識の豊富化というプロセスを通じて私はいわゆるフローの状態(ゾーン)へ突入することが
多々あります。
フロー&レジリエンス http://www.kkkiduki.jp/article/14604818.html

 私に楽しさを感じさせ、熱中させ、フローの状態(ゾーン)に至らせる知識豊富化のプロセスは、知識の再構造化
が知識の豊富化と同等、いえ同等以上に重要な私にとっては、知識の再構造化へ投入する資源(時間等)を私か
ら奪うリスクを有する要注意なプロセスとも言えます。
 スペシャリスト、専門家、特殊技能者、あるいは組織において不良債権(ひどい表現ですね)と揶揄されている中
高年の方々の中には、私と同じように知識の豊富化よりも再構造化に着眼した方が、一皮むけるなど、好ましい方
が案外多いのかもしれません。変化は激しく、極端な話、「ならば自分も常に生まれ変わってやる」位の気概を
持った方がいろいろな点で有利であり、また幸せに生きることにより近づける時代のような気がします。

 『(知識の再構造化(概念変化)など小難しいことをせずとも、)ゆっくり余裕をもって乗り換えれば乗り換え間違いせん(しない)』。息子(中学校1年)に言われました。ガーン、その通り。
 私は、この数年、省察的・学術的実践家を標榜しています。おのずと、今、知識の豊富化(物知り、博識)は私の
仕事において必須なものとなっています。最近、シンプルに考えればそれ以上考えなくてもよいこと、言ってしまえ
ば「たしかにそりゃそうだ」としか言いようがないこと、自明なことなどを、過剰に(必要以上に)、既有の知識であれ
やこれやと解釈し直したり、意味づけしたり、教訓化したりしてい
るような気がしています。
 私は省察的・学術的実践家を標榜はしていますが、私の主軸はあくまで”その瞬間瞬間””勘と経験””実践””成
果”です。人を「なるほど〜」とうならせたり、「そんな見方もあったんですね・・」と感心させたりする
解釈や意味づけ、教訓化は、意図して、少し控えてみようかと思っています。『二兎を追う者は一兎をも得ず』と言いますし・・・。

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