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Vol.49 2013年2月24日(日)

 先に断っておきます。本記事は”さくら”でも”ステルス”でもございません(笑)。
  http://www.kkkiduki.jp/article/14239746.html

 「先生、このテーマでいいでしょうか?」
   
「・・・・」

 実習生は、私が回答する気がないことを悟ると、私から回答を得ることをあきらめ、自分で、「実習で取り組むべきテーマとして何が相応しいか?」について、実習先である企業の中をうろうろと、歩き回るようになります。

 私がインストラクターを務める経営診断実習で、実習の特に初期段階で、よくあるシーンです。
  経営診断実習 http://consul.jpc-net.jp/mc/consulting/management/diagnosis.html
         http://consul.jpc-net.jp/mc/consulting/management/case_201207A.html

 たくさんのテーマ候補の中からどのテーマに的を絞るのか。時間(期間)は限られています。実習生は、限られた
時間(期間)でテーマに沿って現状を分析し、しかるべき改善や改革の方向、具体策を実習先の企業に報告しな
ければなりません。

 テーマ選定を誤ると、テーマが大きすぎて限られた時間では分析や検討が十分にできずに報告するレベルに至
らないことが、逆にテーマが小さすぎて「この程度のテーマについて報告されても役に立たない」と実習先の企業
からお叱りを受けることが、起こりえます。

 自分の能力(知識、スキル、態度等)では解けないテーマを選定してしまう実習生がいます。テーマがモノになるかならないか。実習生は、(そして私は実習生に以上に)かなりの焦り、プレッシャー、葛藤を感じます。

 自身が興味を持つテーマに取り組みたいとの想いを抱く実習生もいます。「実習を”楽”に乗り切れるか否か」の観点でテーマを見極めようとする実習生も(たまに)います。

 テーマが分かれば、あとは解くだけ。 テーマを分かることは極めて重要であり、また難しい。テーマ選定が実習
先企業の期待に応える報告をする上で極めて重要な鍵を握ります。実習生がテーマ選定に慎重になることは当然
です。

 テーマ選定のリスクや想い、思惑は、テーマ選定について、過剰に慎重になる実習生を生み出しもします。テーマ選定に、過剰に慎重になる実習生に対して私が申し上げることは毎回ほど同じです。

 ●膨大な情報(定性情報・定量情報)のシャワーを浴びるため実習先企業内を”うろうろ”して、テーマを探してくだ   さい。
 ●そして、これがテーマとなりうると判断したら、とにもかくにも、それが最後の報告の体を成すまでいきつくかどう  か分からなくても(不安であっても)、そのテーマを突き進んでください(深堀りしなさい)。
 ●「こりゃテーマとしては×だな」と判断したらそのテーマで突き進むことは諦めてください。先のテーマ探しの同様
  に、”うろうろ”して新たなテーマを探してください。先に諦めたテーマを見出した時よりも、おそらく、短い時間で
  新たなテーマを見つけることができるはずです。

 ●最終的に報告の体を成さない可能性があります。それで結構です。突き進んだ(深掘りした)ところまでを報告
  すればそれで十分です。

 なぜなら、
 ●そもそも、1日、2日の短期間で、現実の企業の改善や変革に効く適切なテーマを選定することは 至難のわざ
  です(と私は思っています)。変に要領よく、”こじんまり”とした診断やコンサルティング、報告の癖を身につけて
  欲しくありません。

 ●ある程度深掘りしないと、何も分からないことがよくあります。何も分からないまま皆さん(実習生)を漂流させた  くはありません。
 ●逆に、ある程度深堀りすると、何かが分かことが大半です。何かが分かれば、それがヒントになり、芋づる式
  に、他の何かも分かることが多いのです。
  ●効果(成果)をあげることができる見込みを立てることが先です。それから効率を高める(良い意味で”楽”をす
  る)ことを目指してください。『効果→効率』の順を守ってください。

 ●私の実習で、このやり方で、報告の体を成さない報告となった事例は一度もありません。
 ●仮に報告の体を成さないとして、その責任は、原則、インストラクターである私に帰されるべきです。あなた(実  習生)の責任ではない。
 ●私は、皆さん(実習生)に、グライダーと飛行機を兼ね備えた方になって欲しい、と僭越ながら、思っています。

 人間には、グライダー能力と飛行機能力とがある。受動的に知識を得るのが前者、自分でものごとを発明、発見
するのが後者である。両者はひとりの人間の中に同居している。グライダー能力をまったく欠いていては、基本的
知識すら習得できない。何も知らないで、独力で飛ぼうとすれば、どんな事故になるかわからない。

しかし、現実に
は、グライダー能力が圧倒的で、飛行機能力はまるでなし、という“優秀な”人間がたくさんいることもたしかで、し
かも、そういう人も“翔べる”という評価を受けているのである。

 外山滋比古(1986)『思考の整理学』筑摩書房pp.13-14

 やみくもに”うろうろ”させてもいけないし、”うろうろ”させないといけないし・・・。

 私は”うろうろ”させられてここまで来たのでいいのですが、そんな経験が乏しい方にどう”うろうろ”させればいい
のか、よく分からないまま、勘と経験で”うろうろ”させています。最後は立派な報告となっているから良いと言えば
良いのですが、”うろうろ”がフィットしない(効果的・効率的な学習プロセスとは言えない)実習生もいるでしょう。
私にとって、

”うろうろ”のマイセオリーを整理すべき時期が到来しつつあることを感じます。

  経営診断実習は、実習生にとって、そして私にとっても、グライダーとして学習した知識を実践で試したり、現実
に適用したりする上で、また飛行機力を培う点で、極めて有効かつ貴重な能力開発の場です。様々な経験を積
み、問題意識を醸成し、将来の研究分野の萌芽に気づく場でもあります。

 経営診断実習 http://consul.jpc-net.jp/mc/consulting/management/diagnosis.html
        http://consul.jpc-net.jp/mc/consulting/management/case_201207A.html

うろついてテーマを探すプロセスは、京の町家で自分の住むべき貸し部屋を探すのに似ている。京の町家は、表
通りに面した入り口は狭く、奥へ行くと広がっている。そして、表から見ると似たような町家がたくさん並んでいる。
その中から自分が住みたいと思える部屋をどうやって見つけるのか。

表通りから表面的に見たのでは、部屋の様
子などわかりはしない。入り目が狭いから家全体がよくなさそうだと思うとそれも大間違い。とにかく、狭い入り口を
勇気を出して入ってみて、奥の広い部分にある多くの部屋を見せてもらうしかない。居心地がよさそうな部屋が見
つかるまでには、何回も出たり入ったりが続きそうだ。そして、何回も違う入り口から少し違う間取りの家に入って
みるプロセスは、うろうろしているばかりでなくなんとなく土地勘を養っているプロセスにもなる。

 伊丹敬之(2001)『創造的論文の書き方』有斐閣 pp.117-118

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