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Vol.26  2012年2月20日(月)

 「この研修は役に立たないですね」
 「研修(の内容)は活かせませんね」

 こんな研修受講者の声を聞くことがあります。

 「このクソ忙しい中、こんなこと(研修)で呼び出すなよ」
 「役に立たない研修に、こんなに金をかける必要があるのか」

 批判が聞こえてくることもあります。

 基本的に忙しく、また豊富な経験や様々な信念、目的を有していることなどか
ら、それなり
の心持ち、環境が整わないと、また相応の教えられ方でないと、
修(学習)に身が入らないビジネ
スマンが多いのは、当然と言えば当然です。

 成人は、多くの固定した思考の習慣やパターンを有しており、この点ではあま
り開放的では
ない

 マルカム・ノールズ(著)/堀薫夫、三輪建二(監訳)(2002)『成人教育の現代 的実践−ペタ

ゴジーからアンドラゴジーへ−』鳳書房pp.50

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 成人は多くの学習に対して、応用の即時性(immediacy of application)という

枠組みをもつ傾向にある。彼らは、多くの場合、現在の自分の生活状況におい

て感じているプレッシャーへの対応という形で、学習に参加する。成人にとって

教育とは、自分が現在直面している生活上の問題に取り組む能力を向上させ

るプロセスなのである。彼らはしたがって、問題解決中心な(problem-centered)、

あるいは課題達成中心的な(performance-centered)精神の枠組みをもって

教育活動に参加するといえる。

 マルカム・ノールズ(著)/堀薫夫、三輪建二(監訳)(2002)『成人教育の現代
 的実践−ペタ
ゴジーからアンドラゴジーへ−』鳳書房pp.56

 ビジネスマン(成人)に人材育成サービスを提供するにあたっては、彼らの
持ちや環境に配慮しそれらを
整える、また彼らの経験を活かす方向でカリキュ
ラムを組み立てる教え方に工夫を凝らす


 当然のことです。

 この考えを大前提に、以下、話を進めます。

 繰り返しますが、 ビジネスマン(成人)に人材育成サービスを提供するにあたっ
ては、彼らの
持ちや環境に配慮しそれらを整える、また彼らの経験を活かす
方向でカリキュラムを組み立てる教え方に工夫を凝らす。当然です。

 とはいえ、言うは易し行うは難しです。

 例えば、研修の内容が「実利的であるか否か」「やりたいとことなどと関係して
いるか否か
」「自分の目的に合致しているか否か」。

 判断は、受講者、研修事務局、サービス提供事業者、受講者の上司等の主観
に依ります

 「研修の内容は受講者にとって役に立つ」「研修で学ぶことは受講者の重要な仕事と関連し

ている」と研修事務局、受講者の上司、サービス提供事業者等が認識していたとしても、受講

者本人がそのように認識しない限り、この研修は受
講者にとって身の入る「大人の学習」では

なくなるのです。
 

 「(研修は)自分(受講者)にとって役立つ

 「(研修は)いずれ自分(受講者)がやりたいとことと結びつく

 人材育成(研修)サービスを提供する者は、どこまで受講者を説得したり、理
解を促したり
る必要があるのでしょうか。どの程度まで配慮せねばならないの
でしょうか

学習に関する責任の所在はどこにあるのでしょうか。
だれが学習の責任を持つべきなのでしょうか。


 「木下さん、私は受講者に過剰なサービスを提供するつもりはありません。甘やかすつもりもありません
 「研修が役立つがどうかは受講者の主観次第です」
 「研修が役立つとか役に立たないかは受講者が決める(受講者が責任を負う)ことです」。
 「このような学習に関する覚悟も受講者には必要ではないでしょうか」
 「昨今の受講者の中には甘え過ぎている者もいます」
 「私がやるべきことは、組織が期待する人材の育成に少しでも貢献できるよ
う最善を尽くすことのみです」
 「私の顧客は組織です。」
 「受講者の声・評価はもちろん大切です。しかし、最優先すべきものではあ
りません

 某大手企業の研修担当者(A氏)が、静かに、しかし決意を持ったような眼差しで、正面から、私に語ったことがあります

 A氏の考えに私は共感する点もあります。

 組織が大きな変革の舵を切りつつある状況下で、他の様々な経営施策の
一環として、他の様々な経営施策と連動する形で展開される人材育成施策
(研修)などは、受講者にかなりのストレスをかけ、また将来を見通した、能
動的な受講者からしか肯定的に評価されないようなことがあります。


 自律したビジネスマン
 こんな言葉が登場し久しく時が流れました。

 以前のコラム「スパルタ的な育て ギリギリの時点で、最小限の・・・」において私は次のような考えを述べました。
 http://www.kkkiduki.jp/article/14158195.html

 ●「スパルタ的な育て」の危険さ、難しさを前提としながらも、「育て」において、  スパルタ的要素は必要不可欠。
 ●人材育成に責任を負う者は、「ギリギリの時点で」、「最小限の」 支援を与
  えるという
スパルタ的な基本的な姿勢・マインドを決して忘れてはならない。

 ①学びが役立つがどうかは、基本的には、自分(受講者)の主観次第で
  ある。


 ②学びを役立てるか役立てられないかは、基本的には、自分(受講者)
   が責
任を負う


 ③人材育成責任者・担当者にとって受講者の声・評価は大切。しかし、
   最優先すべきものではない(良い意味でのプロダクトアウト志向)。


 このような考えのスタンスで人材育成サービスの内容を検討したり、人材育
成サービスを提供したりする方が、その組織、場の状況によりフィットする人
材育成サービスとなるケースも多々あるように感じます。



 
上記の考え①、②は、自律したビジネスマンになる上で、自律したビジネスマンであるための、発達に関する必須のマインドのように、私には思えます。

 将来の不透明感が増す中、職場には組織間や世代間の価値観・コミュニ
ケーションのギャップ、あつれきがあったり、
言うことだけ言って責任をとらない人フリーライダーがいたりなど、理不尽なことも多い。そんないろいろなこと
に文句を言いたい気持ち、分らなくもありません。いえ、もの凄く分かります。 


 「この研修は役に立たないですね」
 「研修(の内容)は活かせませんね」
 これらの発言も、いろいろ言いたい文句の一つなのかもしれません。
 こう発言する気持ち、心情に思いをはせると、発言する方を取り巻く環境へ
の影響について自分の非力さを感じることも多く、申し訳ない気持ちで一杯

にもなることが多々あります。

 しかし、あえて申せば、自律したビジネスマンであるためには、また組織から
将来を嘱望され、またその嘱望に応えるつもりが少しでもある、例えば、次期
経営者候補次期リーダー候補にとっては、能力(知識、スキル・技能、態度)
の発達を維持・加速する上で、上記の考え①、②を学びに取り組むベースとし
て有していることが極めて重要なことのように私には思えます。


 上記の考え①〜③に対して「私も同じ考えだ」と表明する人材育成責任者・担当者、人材育成サービス事業者には、より大きな「人材育成サービスのクオ
リティに係る責任」が課せられます。


 
上記の考え①〜③に対する態度は、人材育成サービスのクオリティの提供に係る覚悟の度合いを測る目安になるようにも思います。

 

 クオリティ
 クオリティの語源の「クオリス」とは物事の本質や性質を意味しています。
クオリティが高いという意味は、その本質や性質が目的に合致していること
を意味しているのです。しかし、私たちはとかく自分勝手に都合よく目的を
決めて、それに合致しているから「良いものだ」と決めつけてしまうことが多
々あります。いわゆるプロダクトアウトといわれるものです。経営品質向上
プログラムでは、目的はすべてお客様の価値ということにおいていますので、
「顧客から見たクオリティ」という言葉を用いているのです。ここで重要なこと
は、目的に合致しているということがクオリティの高さを決定するわけですか
ら、同じ目的をもったお客様をきちんと見極めることが大前提になります。す
べてのお客様にとって合致することや、すべての状況で合致することではあ
りません。
 経営品質協議会(2009)『2009年版 経営品質向上プログラム アセスメントガイド
 ブック』pp.15

共感 sympathy

 他人の体験する感情や心的状態、あるいは人の主張などを、自分も全く同じように感じたり理

解したりすること。同感。「―を覚える」「―を呼ぶ」

 [株式会社岩波書店 広辞苑第五版]
 

 自律

 ①自分で自分の行為を規制すること。外部からの制御から脱して、自身   
 の立てた規範に従って
行動すること。

  ②〔哲〕(Autonomieドイツ)

 ア)カントの倫理思想において根本をなす観念。すなわち実践理性が理   
 
性以外の外的権威や自然的欲望には拘束されず、自ら普遍的道徳法     
 を立ててこれに従うこと。

   イ)一般に、何らかの文化領域が他のものの手段でなく、それ自体のうち      に独立の目的・意義

・価値を持つこと。←→他律。
  [株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

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