2022年5月2日 谷口栄治(日本総研)
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企業の経営課題が高度化・複雑化するなか、有形資産のみならず、無形資産を含めた事業全体を包括的に担保として取り扱う「事業成長担保権」という新たな担保法制の導入が、政府・当局において検討されている状況。
同担保権の活用により、事業会社にとって資金調達手段の多様化になるほか、借り手(事業会社)と貸し手(金融機関)が、事業の継続・成長という共通の目的に向けて行動するインセンティブになることが期待可能。
これまでの議論では、担保権の設定・公示(一部事業を抽出した担保設定の可否等)、期中管理(事業の一部や資産売却時の取扱い等)、担保権の実行(他の債権との優先関係等)といった観点から、様々な論点が挙げられており、今後、産官学金が連携して法整備を進めていくことが重要。
同担保権が法制度として確立される過程では、金融当局や金融機関としても、以下のような実務面の対応を想定していく必要あり。
①金融機関による法人ビジネス高度化
同担保権の活用にあたっては、金融機関における顧客の実態把握がこれまで以上に重要となるため、担当者あたりの顧客数の削減や担当年数の長期化といった営業体制の再構築、事業評価能力を高める人材育成、多様なデータの活用などのデジタル化等を推進する必要あり。
②活用促進に向けたサポート態勢の整備
従来の不動産担保と比較して、担保価額の評価、期中管理、担保権の実行手続きが煩雑になり、事務コストが高くなると想定されるため、金融機関の負担軽減に向けて、評価手法や各種事務手続き等に関するイメージや相場観の共有など、当局によるサポートが肝要。
③悪用・濫用の防止
過剰担保や企業乗っ取りといった担保権の悪用・濫用を防止するため、担保権を利用・行使できる主体を金融機関等に限定したり、優越的地位の濫用が発生しないようモニタリングを実施する必要。