Vol.57 2013年9月11日(火)
昨晩(2013年9月10日の夜)、京急線の車中でメールをチェックしていると『●●しました(目標を達成しまし
た)!』との文字が飛び込んできました。Iさんからのメールです。能力的にも、人間的にも、私はIさんを信頼してい
ます。
筆者はこれまで、①相手の能力に対する期待としての信頼と、②相手の意図に対する期待としての信頼をはっ
きり区別すべきだと提案してきました。簡単にいえば、相手がやるといったことをちゃんと実行する能力をもってい
るかと、やるといったことをやる気があるかの区別です。
山岸俊男(1999)『安心社会から信頼社会へ』中央公論新社 pp.13
私の感激、感動は、Iさん以上だったように思います。Iさんのこの数年における苦渋や辛苦が、また努力、がんば
りが脳裏をよぎり、涙(&鼻水)があふれてとまりませんでした。
※苦渋や辛苦、努力、がんばりは、私がそのように認識しているのであり、Iさんご本人がどのように認識されて
いらっしゃるかは存じません。
目的の駅のかなり前でしたが、一旦下車しました。
人間万事塞翁が馬。私の座右の銘であり、人生の拠り所です。しかし、以下が私の本音のようです。
『目標を達成したら嬉しい。誇らしい。達成できなかったらつらい。苦しい。悔しい。悲しい』
『人間万事塞翁が馬は、今、目標を達成したり幸せな者が、過去の未達成や不幸せを振り返る際に理解・納得
できる故事/ことわざであり、今、目標を達成できていなかったり幸せでなかったりする者が、過去の未達成や不
幸せを振り返る際に自分を納得させたり、行き場のないやりきれなさから目をそらす良い意味の逃げ道の機能を
有する故事/ことわざだ』
「(私は)賢人にはほどほど遠い」ことは分かっていましたが、より賢人から遠ざかった気がします。
プロセスの重要性は十分に認識しつつも、「やっぱり、(良い・優れた)結果を残した方がいい。残したい」と、自己効力感を得たり、自分を鼓舞したり、希望・見通しを持つなどの観点から、強く思います。
勝てば官軍。これも私の座右の銘の一つです。
「勝ち方が大事だよ」、「何をもって勝ちとするかが問題なんだよ」」「負けて学ぶことも多い」「Win−WINが大
事」「勝てば官軍なんて品がない」等とお感じになられる方も多いかもしれません。
Iさんのこと、一昨日の早朝に決まった東京での夏季オリンピックの開催のこと、組織やビジネスにおけるサバイ
バルの現実・・・。
私にとって、「勝てば官軍」は、複雑なこの世を、シンプルに、現実的に、理解する上で極めて有益な故事/ことわ
ざでもあります。
リーダーやマネジャーにとっては、自身の勝ちもさることながら、部下等を勝たせる(=官軍にしてあげる)こと
は、先に述べた自己効力感、希望・見通しを部下等に持たせる、部下等を鼓舞するの観点から、極めて重要な役
割、目標です。リーダーやマネジャーは部下等を勝たせ、彼らに夢を持たせる責務を負っています。
この数カ月、Tさんに勝ってもらうことを私なりに目指してきました。力不足からかなわない見込みです。Tさんに
は申し訳なく思います。
※諦めているわけではありません。念のため・・・。
私は矛盾しています。
勝てば官軍、成果を出してナンボ、と私は強く信じています。しかし、冒頭に記したIさんの目標達成に反応して流
したのは、Iさんのプロセスについて感激、感動した涙です。成果について流した涙ではありません。
モノ・サービスと同様に、人の労働力をインプットースループットーアウトプットの3工程に見立てれば、インプット
に当たる部分が労働意欲や潜在能力であり、スループットに当たる部分が仕事の進め方やプロセス、あるいは職
務に求められる能力や職務に対する評価で、アウトプットは、実際に出された成果に応じて与えられる評価である。
経営行動科学学会(編者)(2011)『経営行動科学ハンドブック』中央経済社pp.471-472

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プロセスは立派だ。でも成果がでない・・・。
プロセスはどうしようもない。でも成果が出ている。
皆さんは、どう評価されていらっしゃいますか。
※話しをややこしくしないため、「成果が出ている・出ていないをもってプロセスの良・悪を判断する(出ている=
良、出ていない=悪い)」は”なし”とします。
評価が難しいのは、私は、後者(プロセスはどうしようもない。でも成果が出ている)の状況の方です。
唐突にプライベートに話を変え恐縮ですが、息子(中学校1年生、12歳)の場合でしたら、私の評価の基本は以下の通りです。
プロセスは立派だ。でも成果がでない・・・。
↓
思いっきり評価する(評価してあげる)。
プロセスはどうしようもない。でも成果が出ている。
↓
特段何もしない。注意を喚起する。
念のためですが、上記の、12歳の息子に対する私の評価の基本は、彼(息子)が今”12歳”だからであり、
12歳の彼が今学習すべきは、以下のような考え方、前提を、信念とまではいわないまでも、基本的な価値観と
して身体や脳に刷り込ませることである、と私は信じているからです。
●プロセスに全力を尽くす。結果は、基本、プロセスの後工程として登場する(プロセスが先で結果は後)。
●結果を過剰に意識するとロクなことはない。結果への過剰な意識は、”怖れ””萎縮”を生む(そしてプロセスに全
力を尽くすことを妨げる)。
●プロセスに全力を尽くしていれば、たとえ望まない結果であった場合でも、前向きに諦めることができる。踏ん切 りがつく(例:結果を出せずにこれまでの道と異なる道を歩むことになったとしても悔いがない)。
●プロセスに全力を尽くすことに伴う能力向上の度合いは(全力を尽くさない場合よりも)計り知れないほど大きい。
ちょっと心配なのは、彼がこれらの考え方、前提のみを深くインストールしたまま成人したなら、彼はブラック企業の思うようにやられてしまう可能性が高いことですね(笑)。
だからというわけだけでもないのですが、彼がもし25歳であったなら、学ぶべきことは、克服すべき課題は、
『プロセスも結果も大事にする』『結果に執着しつつ、結果への執着に起因する”恐れ””委縮”を克服する』
『(プロセスも結果も大事にする等の)矛盾やそれに伴う葛藤と対峙する』などであろうと思います。
「プロセスと結果、どっちが大事?」との問いへの解を検討するには、プロセスの当事者であり、また結果を出そうとしている彼または彼女にとっての発達課題が何であるのかを検討することが先なのでしょう。
発達課題 developmental task
発達のそれぞれの段階において、解決しておくべき心理社会的な課題をいう。適切に解決できればその後の発達の段階はうまく進んでいくが、解決できない場合には、後の段階で多くの発達上の困難に出会うことになる。
中島義明、安藤清志、子安増生他(1999)『心理学辞典』有斐閣 pp.692

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【補足】
勝てば官軍負ければ賊軍
戦いは、道理に合わなくても勝てば正義で、道理に合っていても負け
れば不正なものとされること。略して「勝てば官軍」とも。
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]
道理
①物事のそうあるべきすじみち。ことわり。源氏物語帚木「世の―を
思ひとりて」。「そんなことが許される―がない」
②人の行うべき正しい道。道義。「―にはずれた行為」
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]