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Vol.48 2013年2月21日(木)

  私が小学校3年生の時、親父の兄が不慮の事故で他界しました。親父の兄は、戦中・戦後と、波乱万丈の人生を送っての旅立ちでした。

 「お父さん、何で泣かないの?」。

 「男は、人前で泣いてはいけない時がある」。

  「へー(驚 → 尊敬)」。

  このことを同級生のS君に話しました。

 「泣きたければ泣けばいい。我慢するのはおかしい」。

  「へー(驚 → 怒・不快 → 疑問、尊敬?)」。

 S君の言葉に驚き、尊敬する父を侮辱されたような不快な感情が、そのうち疑問がわいてきました。そして、S君は凄いな、とも感じました。

 「あの時のS君に会い、彼の真意を聴いてみたい」。この歳になり、時々思います。

 同じ事象や出来事であってもそれらへの反応は人様々です。 

Aとは activating event のことであり、その後の反応を導き出す原因となる出来事のことである。賦活事象と
訳されることもある。Bは belief であり、信念(ビリーフ)と訳される。これはAについての思考や信念などの認知
的変数を表す。Cは consequence であり、Bから生じた情動的あるいは行動的結果であり、反応を表す。結果C
は、クライエントの目には賦活事象Aが直接引き起こすかのように見える。だが、じつはその間に信念Bとよぶ認
知スタイルが存在する。

中島義明、安藤清志、子安増生他(1999)『心理学辞典』有斐閣 pp.266

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 「同じ事象や出来事であってもそれらへの反応は人様々」を実感(学習)させてくれる人物は、その後の私の人

生にはあまた登場します。S君はそれらのなかで私の意識に登場する最初の人物なのかもしれません。

  様々な反応の存在を、様々な場面で実感(学習)してきましたが、例えば上記のABCシェマなどの理論として、
体系的に、系統だって、学習したのは(教育を受けたのは)、20代後半の頃です。小学3年の頃から20年も経っ
てのことです。私の学習は、20年の時を経て、教育によって、腑に落ち、明確に意識できるものとなりました。

 学習と教育は似て非なるものです。

 比較的低度のものは、ほうっておいても生活するなかで自然に学習できます。しかし,高度なものは、自然のうち
に学習することは難しく、意識的に努力をする必要があります。また、それだけは十分でなく、他者の手を借りる必
要があるものも出てきます。高度であるもの,かつその社会にとって不可欠であるとみなされるものを、人生の先
輩格の人びとは、後から生まれる後輩に対して、後輩たちが早く確実に学習を行えるようにと助言を始めます。そ
れがすなわち、教育の発生です。つまり教育とは学習を確実にするための方法です。

 関口礼子他(2002)『新しい時代の生涯学習』有斐閣 pp.7-8
  ↓
●人は、低度のことは、特段に教育を受けずとも、自然と学習している。
●高度なこと(自然に学習することは難しいこと、意識的に努力する必要があること)の学習には教育が必要である。
●教育は、高度な学習を確実ならしめるための手段である。

  学習
 ①まなびならうこと。
 ②〔教〕過去の経験の上に立って、新しい知識や技術を習得すること。広義には精神・身体の後天的発達をいう。
 ③〔心〕行動が経験によって多少とも持続的な変容を示すこと。
 [株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

 教育
 ① 教え育てること。人を教えて知能をつけること。人間に他から意図をもって働きかけ、望ましい姿に変化させ、   価値を実現する活動。「新人を―する」「学校―」「社会―」「家庭―」
 ② ①を受けた実績。「―のない人」
 [株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

 私は、研修であれ、コンサルティングであれ、なんであれ、人材育成に関わる際には、以下のことに常に心がけるようにしています。①教えるべきこと(高度なこと、学習するにあたり意識的に努力する必要があること)と学習させること(低度なこ  と、意識的な努力は必要としないこと)を区別する。
②教えるべきは、高度なこと(学習するにあたり意識的に努力する必要があること)のみ。
③低度なことは教えない。学習させる。学習を促進する環境を整えてあげる。

 高度か、低度かは、教育を受ける側(の能力レベルの現実)を起点とします。教育する側(が想定する教育対象者の能力レベル)が起点となるわけではありません。教育する側はあくまでわき役です。

 教育とはあくまでも、“支援”であり、人材育成という活動における主体者は学習者である。
 中原淳他(2006)『企業内人材育成入門』ダイヤモンド社 pp.68

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 学習と教育の混乱(区別しない、区別できない・・・)は、過剰な教育や逆に放任(教育を必要としている者に適切
な教育を施さない)を引き起こすなど、巷をにぎわせている人材育成機能不全論の背景の一つとなっているように
思います。

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