Vol.29 2012年3月3日(土)
「私の(生まれてきた)目的は何かしら」と悲しげにつぶやくイザベル。
イザベルは(おそらく第一次世界大戦で)両親を失っています。
ヒューゴが語りかけます。
「(母を失い、そして)父さんを失った後、この時計台から街(1930年代の
フランス)を見ていると、世界が一つの機械のように思えた。機械には目的が
ある。機械には不要な部品は一つもない(部品一つひとつに目的がある)。僕
も何かの目的を持って生まれてきたはずだ。君にも必ず生まれてきた目的が
あるはず」。
※以上、あくまで私が映画を見た時の記憶に基づく台詞です・・・。
ヒューゴの父が心ときめかせた、壊れた機械人形は、ヒューゴにとっては父
の形見のような存在です。なんとしても、壊れている機械人形をヒューゴは直
したい。命を吹き込みたい。
ヒューゴは修理に成功します。
その機械人形が描いた絵は・・・。
ヒューゴが修理した機械人形は、描いた絵を通じて、第一次世界大戦で、キャ
リアと希望、そして尊厳を失った初老の伝説の映画監督(パパ・ジョルジュ/ジョ
ルジュ・メリエス)とその妻(ママ・ジャンヌ)、2人に引き取られ育てられている少
女(イザベル)、片足を失った鉄道公安官、兄を失った花屋の女性・・・、そして、
なによりヒューゴ自身に生きる目的を与えるという奇跡を起こします。
生まれてきた目的、生きる目的、働く目的、稼ぐ目的・・・。
目的はあるか、否か。
あるとしたらどのような目的か。
深い問いですね。
経営者やそれに準ずる要職にある方々から、様々な経営活動について、その
目的や意味を問われることがあります。
正直、「そんなことちょっと真剣に考えれば分かるでしょう」「それを考えるのが、
そしてそれを社内に発信するのが、あなたの仕事でしょう」と言いたい衝動にか
られることが多いのですが、その衝動にグッとブレーキをかけることが大半です
(「真剣に考えれば分かるでしょう」等と申し上げることも少なからずあります)。
それの目的や意味には、唯一無二の正解はない(ことが多い)。
それの目的や意味は様々である。
自身の信念、価値観を信じて、それの目的や意味は、いずれかから選択するし
かない。
「目的や意味を教えて欲しい。(間違っていないか)確認したい」と問うのは、「目
的や意味に正解がある」と思っていたり、自身の信念や価値観に自信が持ててい
なかったりする状況であるのかもしれません。
これまでやってきたことを止める。
やろうと考えていることを止める。
「止めると、困ったり、落胆したり、文句を言ったりする人(含、自分)や組織はい
らっしゃいますか?ありますか?」
「いる、あるのであれば、”それ”には何がしかの目的や意味があるのではない
でしょうか」
※それ=生きる、働く、稼ぐ・・・
目的や意味を問われた際に、このようなやり取りをすることがあります。
目的や意味を見出すには想像力や経験、知識が必要な時があります。
目的や意味を求めて彷徨う人は、想像力を発揮していなかったり、経験や知識
が十分でない可能性があります。
イザベラが 「私の(生まれてきた)目的は何かしら」とつぶやくのはいたしかた
ありません。彼女は幼く、経験、知識が圧倒的に不足しています。
目的や意味が見出せないことでモチベーションが高まらない、その結果として十
分な成果物を作りだせないのであれば、(成果物を手にする)目的や意味を見出
す(明らかにする)ことから、いったん距離を置いた方がいいのかもしれません。
目的・意味を考えることを止めるのです。
目的・意味を考えることを止める。 とはいえ、
「目的は大事」「目的からブレイクダウンする(。そして、具体策を決め
る」「目的・ゴールから逆算する。多くの著名人、大家が語っています。
目的を持って始めるということは、目的地をはっきりさせてから旅立つことである。
目的地を知ることで、現在地もさらによく分かるようになるし、いつも正しい方向に
向かって歩み続けることができるようになる。
スティーブン・R・コヴィー(著)/ジェームス・J・スキナー(訳)(1996)『7つの習慣』
pp.127-128

7つの習慣―成功には原則があった!←click!
《三行の経営論》本を読む時は、初めから終わりへと読む。ビジネスの経営はそれとは逆だ。終わりから始めて、そこへ到達するためにできる限りのことをするのだ。
ハロルド・S・ジェニーン、A・モスコー(編著)/田中融二(訳)(2004)『プロフェッショ
ナルマネジャー』pp.34

プロフェッショナルマネジャー←click!
新入社員が入社したてに習うものの一つに5W1Hがあります。このうちのWhyは
目的・意味に関する問いです。
多くの方は、私もその一人なのですが、知らず知らずのうちに、目的を重要に考え
過ぎていたり、目的を過大に評価し過ぎていたりするのかもしれません。
成果物を手に入れて見出す(分かる)目的・意味も多々あります。
成果物を手に入れ、当初設定していた目的・意味が、実は適切でなかったことに気
づくこともあります。
目的・意味が明らかでないことを、目的・意味に納得できないことを、成果創出のため
のアクションに着手しない、アクションへ心血を注がない”言い訳”にする方もいらしゃい
ます。
コッターは、企業変革プロセスの初期におけるビジョン(行き先)の発信を、「性急過
ぎる」と懸念しています。
世界は複雑になり、変動が激しくなっている。小規模な企業や、大企業の小さな部門
が直面する問題ですら、極めて複雑になる。英雄ひとりがすべてを解決できるとは考え
られなくなっている。適切な人材を配置し、困難な仕事に取り組み、協力し合うチームが
必要である。こうしたチームを作ってから(第二段階)、ビジョンの策定に取り組むべきだ
(第三段階)。適切な人材を見いだし、協力して困難な仕事に取り組むようにするには、
危機意識が必要である(第一段階)。
ジョン・P・コッター、ダン・S・コーエン(著)/高速裕子(訳)(2003)『ジョン・コッターの
企業変革ノート』pp.50

ジョン・コッターの企業変革ノート←click!
行き先にたどり着くための策を検討するよりも先に、まずは行き先にたどり着く目的・
意味について熟考し、明らかにすることは、はしごのかけ違いを防ぐ、組織構成員の
活動のベクトルを合わせる等の点から極めて有用性に富むことは間違いありません。
しかし、その行き先、その行き先の目的・意味の明確化、納得にこだわることには
注意を払う必要があるようです。
映画『ヒューゴの不思議な発明』
スタッフ
監督・製作:マーティン・スコセッシ
原作「ユゴーの不思議な発明」:ブライアン・セルズニック
キャスト
ヒューゴ・カブレ:エイサ・バターフィールド
イザベル:クロエ・グレース・モレッツ
パパ・ジョルジュ/ジョルジュ・メリエス:ベン・キングズレー
鉄道公安官:サシャ・バロン・コーエン
ママ・ジャンヌ:ヘレン・マックロリー
ヒューゴの父:ジュード・ロウ