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vol.17  2012年1月3日(火)
 
<2012/1/3「政府の「事故収束」宣言波紋」毎日新聞朝刊より>
 野田佳彦首相が昨年12月16日の記者会見で「発電所の事故そのものは収束に至った」と宣言したことに波紋
が広がっている。「収束」宣言の背景には、昨年中に除染や避難区域見直しの方向性を示すことで、先が見えな
い状況に不安を抱く被災地の心情に配慮する狙いがあったが、福島県議会は27日、撤回を求める意見書を全会
一致で可決。県内の自治体首長の反発も強く、逆効果となった形だ。政府関係者は「どこかで節目をつけないとい
けなかった」と話す。 (笈田直樹)

 政府は節目をつけたかったようですが、避難生活が長期化する中、放射性物質拡散の新たな判明や「どこに燃
料があるのか、原子炉をあけてみなければ誰もわからない(細野環境相)」「燃料の場所がどこにあるにしても、冷
却されているという状態(細野環境相)」という説明などから、節目をつけることに違和感をおぼえる被災地住民が
大勢いらっしゃるようです。

 私たちの人生には多数の節目があります。

【人生における節目(例)】
出生・誕生、七五三、入園式、入学式、進級、卒業式、成人式、結婚、出産、銀婚式・金婚式、離婚、還暦(61
歳)・古希(70歳)・喜寿(77歳)・米寿(88歳)、隠居、死、葬式、法要(百ヶ日・一周忌・三回忌等)

 日本における民俗学の開拓者である柳田國男は節目について着目しました。フランスの文化人類学者であるア
ルノルド・ヴァン・ジェネップは、人生をある時空間から他の時空間へ移動する連続と捉え、そこにはたくさんの儀
式(節目)が用意されているとして、それらの儀式を通過儀礼の概念としてまとめました。

 節目、通過儀礼、洋の東西を問わず、人生には、日々の生活には、人生や日々の生活を区切るモノ・コトがあ
り、それらが「人生や日々の生活にリズム・勢いをつける」などの同様の概念を形成するに至っているのは興味深
いことです。

 節目は人材育成、キャリア論、リーダーシップ論等におけるキーワードの一つでもあります。

 節目よりも、トランジション(transition 転機、移行(期))の方が、人材育成関連業界では認知されている言葉
なのかもしれません。

 仕事、ビジネスにおける節目、トランジションにはどのようなものがあるのでしょうか。

【仕事、ビジネスにおける節目・トランジション(例)】
昇進・昇格、異動、辞令、離職、転職、退職、一皮むけた経験、売上●●億突破、新事業成功・失敗、先代社長から
二代目社長への事象承継

 William Bridgesは、人それぞれ千差万別のトランジション(transition 転機、移行(期))を「終焉」「中立圏」
「開始」のパターン、プロセスとして理論化しました。

 「何かが終わってから(終焉)、何かが始まる(開始)」は分かりやすいですね。

 Bridgesは「終焉」と「開始」の間に、「終焉」とも違う、「開始」とも違う、”どっちつかず”の、”中途半端”な、”宙ぶ
らりん”な、”あいまい”な、「中立圏」というプロセスを設けました。

 「中立圏」において、人は、「失う(った)もの・こと」、「もう二度と手に入らぬもの・こと」への愛着、郷愁、思慕、懐
かしさ、有用さ、そして「もしかしたら再び手にすることができるかも・・・」との淡い期待等と向き合い、もがき、苦悩
します。もがき、苦悩しながらも、徐々に、「それでも、踏ん切りをつけねば次に進めない」との意識が芽生え、覚悟
し、そして”本当の”「開始」プロセスに入ります。「中立圏」は「開始」に向けての(積極的な)準備期間です。もがく
ことなく、苦悩することもない「開始」は、実は”うわべの”「開始」に過ぎないのでしょう。”うわべの”「開始」は”うわ
べ”ですから、再び「中立圏」に戻ったり、「終焉」以前に戻ったりする恐れがあります。

 Bridgesの理論を参考に考えますと、被災地住民の皆さまが”本当の”「開始」のプロセスに入るには、まことに
僭越ながら、私などには想像も及ばぬほどの大きくかつ壮絶なもがきや苦悩が必要なのでしょう。

 被災地住民の大勢の方々が政府の節目づけに違和感をおぼえる要因の一つに、被災地住民の方々が”本当
に”「開始」するにあたって課せられた大きくかつ壮絶なもがきや苦悩に対する政府の感受性の鈍さがあるように
思えます。

 仕事柄、節目を迎えている、あるいは迎えようとしているリーダー、マネジャーなど多くの様々なビジネスマンとご
一緒します。2012年、もがき、苦悩されている彼ら・彼女らに対してより的確な支援ができればと考えています。

 そのためには、
 『私は、彼ら・彼女らのもがき、苦悩への感受性をより高める必要がある』
 『私自身、もっともがいたり、苦悩したりする必要がある』

 正月は多少時間的な余裕があります。実家で古いアルバムを見たり、初売りで賑わうショッピングモールの雑踏
に出かけたり、新聞をいつにもましてつぶさに読んだり、いろいろしておりましたら、こんな結論に達しました。

 昨年の4月、母が他界しました。
 父一人では生活が難しくなりました。
 実家は売却することとしました。
 たくさんの思い出に満ちた実家です。
 中立圏に長く留まることになりそうです。
 
【参考】

節目 ふしめ
竹や木材の節のある所。
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

節目 せつもく
①草木の節ふしと木目もくめ。転じて、物事のくぎりや条理。②小分けした一々の箇条。細目。
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

ふしめ【節目】
1 <木などの> a knot.
2 <人生の区切り目> a critical juncture; a turning point
¶人生の節目に  at important [major, decisive] (turning) points in (a person's) life.

[新英和(第7版)・和英(第5版)中辞典 株式会社研究社]

通過儀礼

人の一生に経験する、誕生・成年・結婚・死亡などの儀礼習俗。
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

儀礼
社会的慣習として、形式を整えて行う礼儀。礼式。「―的」
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

通過儀礼a rite of passage; an initiation ceremony
[新英和(第7版)・和英(第5版)中辞典 株式会社研究社]

transition

① 移り変わり, 移行, 変遷, 変化
 a period of transition=a transition period  過渡期
 a sudden transition from autocracy to democracy  独裁制から民主制への急激な移行.
②過渡期, 変遷期, 変わり目
 in transition  過渡期にある.
③(話題を変える時の)前後を接続させる語[句, 文].

[新英和(第7版)・和英(第5版)中辞典 株式会社研究社]

けじめ

①区別。わかち。わけめ。②道徳や慣習として守らなければならない区別。「長幼の―」「―を守る」
③へだて。しきり。
[株式会社岩波書店 広辞苑第五版]

著書

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発行所:中央経済社 
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