TOP

vol.8
2011年12月1日(木)

 「Aはこの3年間でものすごく学習しましたよ」
 「それにひきかえBはダメですね。3年前から変わっていませんよ」

 M部長(K社の人材育成担当責任者)と昼食をご一緒している時にM部長が私に発した言葉です。

 「そうでしょうかね。Bさんの方がAさんより学習されていらっしゃると私は評価していますが」。
 私がM部長に言葉を返しました。

※上記のM部長と私のやり取りにおける学習は、「学習=成長」と捉えていただいた  方が分かりやすいかもしれません。

 M部長と私のギャップは何に由来するのでしょうか?

 A氏、B氏の日常の様子は私よりもM部長の方がよくご存じです。
 日常の様子を把握している程度の違いが、M部長と私のギャップの主たる要因です。

 M部長は人に関する相応の鑑識眼をお持ちでいらっしゃるので、またA氏、B氏の日常の様子を私よりもしっかりと把握されていらっしゃいますので、M部長の人物評価(
氏は成長したが、B氏は・・・)はおそらく的を射たものと考えてよいと私は認識していま
す。


 
ただ、M部長と私には、そもそも論として、「組織人の学習の有無を、何をもって評価するか?」について基本的に拠り所が違うのです。学習の定義が違うと言ってもいいで
しょう。


 
この違いも、A氏とB氏に対するM部長と私の評価にギャップを生んでいる要因です。

 
M部長は学習について基本的に以下のように考えていらっしゃいます。

   『学習(の有無)を行動変容の有無によって判断する。』   ※行動変容 有 → 学習した。
   ※行動変容 無 → 学習していない。

 私は学習を基本的に次にように考えています。

   『学習を行動変容の有無だけではなく、内的な充実(新たな知識の獲得、知識体   系の変容など)の有無も含め判断する。』

 マトリクスで表すと以下のようになります。

                      内的な充実                 
              有             無      

  行動変容  有   立派に学習した     学習したかどうか疑わしい
         無    学習にあと一歩     学習していない

 
A氏、B氏に対するM部長と私の判断をそれぞれの判断基準を含め記述すると次の
ようになります。

 

 A氏について   
M部長 「行動変容したのだから、学習した」

私    「行動変容したが、内的な充実は不十分で学習したかどうか疑わしい(は         
      たして再現性
はあるか??)


 B氏について
   M部長 「行動変容していないのだから、学習していない」
   私   「行動変容していないが、内的な充実は十分であり、学習までもう少しで         
         
ある


よって、
 
  M部長 「Aはこの3年間でものすごく学習しましたよ」
       「それにひきかえBはダメですね。3年前から変わっていませんよ」     
私         「そうでしょうかね。Bさんの方がAさんより学習されていらっしゃると私は
         評価していますが」。

となります。



 
M部長、私の主張、意見は以下の通りです。

   M部長

    ・内的な充実をどうやって認識しろというのだ。方法を標準化できるのか。評価す
     る者の主観に頼り過ぎではないか。
    ・
内的な充実の評価などやっていたら、時間がいくらあっても足りない。    
    ・
評価制度では表に現れている言動、発揮しているもの・ことで評価している。こ
     れと歩調をあわせるべきだ。
    ・
私は組織の仕事の一環として人材育成を担当している。組織の仕事において     
     はおしなべて主観よりも客観を重視すべきだ。

    ・・・・
    ・・・・

   私・人にそれぞれ、その内面に蓄積された知識や思いを行動として表出化するに
     相応しい時期がある。行動変容に至っていないのはその時期が来ていない可
     能性がある。
    ・
人は複雑で深淵な存在である。行動変容していないからと言って「学習してい
     ない」とみなすのは、人の複雑さや深遠さを、マネジメントのし難さを理由に、
     避けている
としか言えず、人材育成担当者としてあまりに効率優先過ぎはしな
     いか。
    ・
「評価制度で表に現れている言動等を基に評価しているといって、人の学習を     
     同じように評価する理由はない。人の学習は可能性に着目すべきである。

    ・・・・

    ・・・・

 
M部長、私の主張、意見には、次のような人間観、マネジメント観がベースにあります。

   M部長
    ・反応−刺激モデル
    ・効率こそが利益の源泉
    ・測定重視(測定不可であればマネジメントは不可)
    ・客観性重視

    
etc.

   私 
    ・人の認知機能や独自性の尊重
    ・効果が効率に先んじる
    ・プラレリズム(多元主義)
    ・ホリスティック思考
    ・曖昧さの許容
    etc.



 M部長には私の主張、意見を理解・尊重していただいています。
 私もM部長の主張、意見を理解・尊重しています。

 
また、K社のM部長に対しては、私は学習について上記のような主張、意見を述べて
いますが、別の会社において私は、M部長の主張、意見の立場をとることもあります。


 「どちらの主張、意見が正しく、間違っているというわけではない」、「組織や企業の経
営のあり様、戦略・戦術、そして人材育成の目的、人材育成係る人材の量・質によって
どちらの主張をベースと
すべきかを決めるべき」なのでしょう。

 あなたは(御社では)、学習を、何をもって評価されていらっしゃいますか?
 学習をどのように定義されていらっしゃいますか?


 それら(学習の評価基準や定義)は、経営層、経営幹部をはじめ、社内でどの程度共
有できているでしょうか。

【補足】
 K社においては、幸いにもM部長と私は経営や人材育成の方向性、具体策等につい
て腹蔵なく互いの意見や主張をやり取りできる関係にあります。人材育成は、他の仕事
と同様に、効率一辺倒でも、効果一辺倒でもお
そらくダメで、両者のバランスをとりなが
ら進める必要があります。このバランスをとることが難しいのですが、M部長とは協働し
てうまくやっていけています。

著書

2023年4月発売 
ダイナミック・ケイパビリティのフレームワーク: 資源ベース再構成の組織能力
http://amazon.jp/dp/4502450316
発行所:中央経済社 
統合的な調査・分析の枠組みに基づき、グローバル・ニッチ・トップ企業のM&Aに係るダイナミック・ケイパビリティの実相を、ミドルマネジメントの観点から探究

著書

2014年9月発売 
仕事の基本(経営コンサルティング・ノウハウ2)
http://amazon.jp/dp/4502114219
発行所:中央経済社 

マネジメントの振り返り(内省/ リフレクション)に役立つ!